ギュスターヴ・ドレ Gustave Dore
(1832 - 83)

 ドレはストラスブール生まれで、11歳の頃から石版の技術者として働きだしました。彼の名声は1848年にパリに出て、雑誌の挿絵画家となったことから広まりだし、1853年にイギリスの「絵入りロンドン新聞」のレギュラー挿絵、1854年にラブレー作品集の挿絵によって決定的となります。特に人気を呼んだのは、独特なドラマティックな構図による戦争画でした。1856年にはイギリスで「さまよえるユダヤ人」を刊行、また「老水夫行」(1865)、「ミュンヒハウゼン男爵の冒険」(1866)、「ラ・フォンテーヌ寓話集」(1866)、「聖書」(1867)とつづく豪華なモノクロ大画面の迫力によって読者を魅了、いちはやく有名挿絵画家となりました。1870年代にはロンドンで彼自身の画廊を経営する身分ににもなっています。
 しかし挿絵画家としての成功は必ずしも彼を喜ばせなかったようです。彼は晩年になるにしたがい油彩画などのファイン・アートに力を入れましたが、その方向転換が成功せずかえって挿絵画家としての名声も失う結果となりました。

 ドレはある意味でラファエロ前派と同じように女性や英雄の表現に秀でた挿絵画家といえます。ことに細部の詳細な描写は素晴らしく、またパンチ絵などの流れを汲むカリカチュアにも才能を見せていました。そのためドレの絵入り本は幻想的なものから戯画的なものまでレパートリーが広いのです。
 彼の死後はもはやそのような壮大な挿絵を描く人物も途絶え、いわゆる「木口木版」の偉大な時代は終わりを告げました。その画風は大時代的でしたが、それでも西洋古典を視覚化するという彼のこころみは19世紀挿絵の花といえるでしょう。




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